阪本義和さん Yoshikazu Sakamoto
- ロボコン事務局 ROBOCON Secretariat
- 7月13日
- 読了時間: 8分
〈プロフィール〉
Aチーム 演出シナリオ担当
メーカーに勤務し、業務用システムのソフトウェア開発を行っている。大阪在住。ものづくりサークル「Beaver's Hive(ビーバーズハイブ)」に所属している。

ロボットを作らないロボコン!?
――――XROBOCONに参加しようと思った理由は何ですか?
私は関西を拠点に活動しているものづくりサークル「Beaver's Hive(ビーバーズハイブ)」に所属してまして、そのサークル活動の一環で参加しているというのが一番の理由です。詳しいことはリーダーの齋藤さんの記事でも紹介されてます。ですが、個人としても参加の理由はちゃんとあるんですよ(笑)。ちょっと長くなりますがいいですか?
――――はい。ぜひお聞かせください!
私は中学高校時代からものづくりが好きでした。NHKのロボコンはテレビで欠かさず見ていたほどです。出てみたいなと思いつつ…進学したのが関西大学の工学部だったんですが、専門がバイオテクノロジーだったものですから出場の機会がなかったんです。でも、幸い大学には「電気通信工学研究会」というサークル団体がありまして、そこに所属して、仲間を募って地元のロボットコンテストには参加していました。
いま私が所属しているものづくりサークル「Beaver's Hive(ビーバーズハイブ)」は、そのサークルを母体として創設されたんです。今は関西大学だけでなく、他大学の学生さんや出身の社会人も含めて幅広いメンバーで活動しています。いろんなロボットコンテストに出場したり、イベントに出展したりしているんですが、その中でも私はロボットのデザインや世界観を担当しています。


今回メンバーの一人がXROBOCONという新しいコンテストがあるというのを見つけてきまして。社会人も含めて誰でも参加できそうだと。しかもロボットのハードウェアだけじゃなくて、アバターの演出という参加の仕方もあるということで。これは出てみたいぞと思ったんです。
だから、私にとってはようやくNHKのロボコンに関わることができた!という心境なんです(笑)
――――ありがとうございます。
阪本さんは、今回のXROBOCONでもシナリオ演出を担当されているんですよね。
はい。ハードウェアとか製作にはほとんどタッチしていないです。XROBOCONではアバターが出てきて、何らかの映像をプロジェクターで投影する。それを観客の方に見ていただくということで、映像だけでも見ても楽しい、何をやっているのかわかりやすい映像を出したいと思いまして、私は演出の“設定”の方を担当しています。
サラリーマン、火星に行く
――――阪本さんが作っているのはどんなシナリオなんですか?
“ビーバー君”というキャラクターが火星探査に行くという設定です。実はこのビーバー君、2年前にサークル活動でロボットをイベントに出展した時から存在しているキャラクターなんです。当時は重機の運転席にちょこんと座っていたんです。その時は“ビーバー君は、重機ロボットメーカーの社員でロボットを開発しているサラリーマンである”という設定を組んでいました。


だから、XROBOCONでは既存の設定を引き継ぐ形で、さらに発展させようということで…
今回、ビーバー君は“重機ロボットメーカーの宇宙開発をしている子会社に出向した”わけです。民間企業が火星で鉱物資源を採掘するために、ビーバー君は長期の単身赴任をさせられているんです(笑)。

火星探査をするためには地球側の管制センターの管制官も必要だよね、ということで動物つながりの“アライグマさん”を管制官として設定に加えました。当初のスケッチではアライグマさんは可愛らしい雰囲気だったんですが、ビーバー君の上司という設定なので、渋くしました。ビーバー君とアライグマさんの上司と部下の関係も描けたらいいなと思ってます(笑)



――――設定がめちゃくちゃリアルです。学生向けのロボコンでは出てこない設定ですよね。
そうそう、やっぱり社会人になって働いてみると、なんかこういう設定の方が共感を呼ぶというのがわかってくるといいますか。単身赴任とかね。
“民間企業”という設定の裏にも試行錯誤があったんですよ。宇宙開発ということで、最初の頃は、国をあげての国際競争みたいな設定を組もうとしていたんですよ。XROBOCONは相手チームとの対戦があるので、国同士の資源の争奪戦にしようか、でもイマイチかなぁ…と悩んでたんです。その時、オンラインミーティングで誰かがポロッと「今の時代なら、国じゃなくて民間企業が火星進出するということにしたら?」と言ってくれたんですよね。その方向性いいやん!ってなって。万博会場で国同士の対立を描くのも気が引けますし、それに民間企業の方がなんかおもろいやないですか。関西人としては、万博で笑いの文化を世界発信せなアカンという使命感もありますからね(笑)
NASAがくれたヒント
――――そもそも、なぜテーマ設定を火星探査にしたんですか?
これはね、割と単純な理由ですよ。今回のXROBOCONのフィールドって段差があるじゃないですか。
その段差を乗り越えるにはどうしたらいいか?っていうことをチーム内で検討したことがあったんです。ロボットの機構というか形をどうするかという議論ですよね。いくつかアイデアが出まして…ジャンプして段差の上に飛び乗ろうとか、すごい巨大な車輪でのぼれないかとか。でもロボットのサイズ制限に引っかかってしまって難しいということになってしまいました。
その時にロボットに詳しいメンバーが提案してくれたアイデアがありまして、それがNASAの火星探査機に使われていた「ロッカーボギー構造」という仕組みなんです。火星の地表を移動しながら探査を行う無人の探査車なんですが、ロボットに車輪が6つ付いてまして、岩場みたいなデコボコ地形でも、ひっくり返らずにスムーズに移動できるんですね。もちろん段差も乗り越えられますし。
それで火星探査車“ローバー”のロッカーボギー構造をお手本にしようよ!と決まりました。じゃあ、シナリオ設定も火星探査でいいんじゃない?今は宇宙開発の時代だし、万博だし、なんかピッタリやん!みたいな。けっこう安直な感じで決まりました(笑)。
――――火星探査を映像表現するのは難しくないですか?
実は火星の映像とかは、もう既に開発中の映像が手元にあるんですよ。私が演出の意図を伝えると、詳しいメンバーが映像化してくれたんです。万博会場でもモニターに映し出される予定です。かなりハイクオリティですよ!まるで本当にこんなゲームが実在するんじゃないかって思えるほどで。ユニティとか実際のゲームに使われてるのと同じソフトウェアを使っているんで、なかなかすごいですよね。
会場では、火星探査車ローバーを運転してるビーバー君の視点でリアルタイムで映像が出る、というのをやります。
今回のXROBOCONのテーマであるデジタルツインじゃないですか。実際のロボットとアバターの世界をシンクロさせるために、いろんな通信技術を使って頑張ってます。
現段階のデモ映像があるので、少しご覧ください。本番までにはもっとブラッシュアップさせますのでお楽しみに!
“物語”が生み出す新しいものづくり
――――難しくて敬遠されがちなテクノロジーも物語があると身近に感じられそうです。
テクノロジーと“物語”の関係性って色々あると思うんです。ロボットのアニメとかフィクション映画などが元ネタとなって実現するテクノロジーもあると思いますし、そうじゃなくて家電メーカーや自動車メーカーがロボットを出すときに物語的なものを必要とする場合もあるでしょうし。一方で最近の生成AIの進化の仕方を見ていると、ユーザーごとの物語みたいなものも注目されていますよね。
いずれにせよ物語は大事だと思うんですよね。
どうしても旧来型の技術オンリーの考え方だと「これが最適解だ」 「このテクノロジーが新しいからこれを使わないといけない」と思いがちですよね。そうすると、どんどん難しくなっていっちゃう。技術ありき、だとどうしても最新のテクノロジーしか見えなくなってしまうんですね。でも、物語から発想すると、お客さんにこういう体験をしてもらうためにはこの程度の技術でいいよね、むしろ古い技術の方が合ってるよね、と技術を選び取ることができるようになるんです。実際にやってみて、ものづくりのひとつの形なのかなと感じますね。物語から作っていくハードウェアみたいな。そういう意味からも、XROBOCONは新しいロボコンのスタイルだと思います。
20年後、AIが絵を描く時代に、私は色鉛筆を握っていたい
―――――XROBOCONは20年後のテクノロジーを掲げていますが、阪本さんは20年後はどんな社会が到来していると予想しますか?
私、地方にふらっと旅行したりして自然の風景とかを見るのが好きなんです。日本には美しい自然の風景が各地にいっぱいありまして、それは20年経っても変わらないとは思うんです。ただ、鉄道とかバスとか公共交通機関がだんだん維持できなくなっている。旅行者も不便ですけれども、地元の住民の方も困りますし、地元の若者が都市部に流出してしまいますよね。今でもその兆しはありますが、20年後はもっと顕著になるだろうなと感じてます。なので、20年後にはテクノロジーがそれを解決するだろうと思っています。たぶん何らかの代替手段が地方への交通を補ってくれて、願わくば20年後も週末は気軽に出かけて美しい自然の風景を満喫できたらいいなと思っているとこです。
―――――意外にアナログな願望ですね(笑)。でも共感します。
あ、そうです。結構アナログですね。私は趣味で落書き程度のスケッチをしたりするんですが、地方に出かけて行って写真を撮ったり絵を描いたりする旅をしていたいですね。
今の時代、AIの方がすごくきれいな絵を描くんです。油絵でも水彩画でも何でも出してくれますよ。でも、すごいアナログですけど、自分で色鉛筆とか使って色を塗っていくという。そのプロセス自体を楽しみたいというか。そういう時間はちゃんと取りたいですよね。


スケッチは風景だけでなくグルメなど思い出も!

Comments